設立趣旨

「光あれ」という聖書の言葉が象徴するように、光は私たちの生活において大変重要な役割を担っています。と同時に、私たちが光に満ち溢れたこの世界を享受できるのは、私たちに「視覚」という能力が存在するからです。あまりに日常的すぎて、私たちの見ている世界が視覚を通じて私たちの内部に再構成された世界であることに気づく人は少ないかもしれませんが、視覚とは外なる世界と私たちの内なる世界を光によってつなぐうえで欠かせない存在と言えるでしょう。

現在、ディスプレイやカメラなど、様々な映像メディアが巷に溢れていることからも明らかなように、視覚情報を扱う日本の技術は世界の中でも特筆すべき存在となっています。またその一方で、工業製品の検査工程における目視検査や品質検査などでは、依然として人の眼に頼らざるを得ないことも事実です。また、視覚情報はデザインの分野でも重要であり、例えばカラーユニバーサルデザイン(CUD)などへの関心も高まっています。これらの問題は結果として「どのように見えるのか」という素朴な視覚の問題につながります。

日本における視覚研究(Vision Research)は世界的にも極めて高いレベルにあります。医学的な研究はもちろんのこと、人間の感覚や知覚、認知を扱う基礎的な研究も学会を中心として活発に行われています。しかしながら、技術者が日常的に直面している視覚に関わる問題と、学問としての視覚研究の間の橋渡しは、必ずしも十分であったとは言えません。特に、工学系の学部に席を置く視覚研究者が問題の解決につながる知識、そして技術的シーズを持っていたとしても、それらを社会につなげる仕組みは、これまであまり意識されてきませんでした。

こうした認識のもと、私たちは2006年から視覚科学技術シンポジウムを数回にわたり開催し、問題解決の手がかりを探してきました。そしてこの度、2008年3月に視覚科学技術コンソーシアム(The Vision Science & Technology Consortium: VSAT)の設立に至りました。本組織は日本における視覚科学技術研究中心を形成するために、視覚科学技術に関する専門家集団(コンソーシアム)を組織し、現場から開発・研究レベルにいたる様々な「視覚」に関わる問題について、視覚研究者と産業界が連携して解決し、社会に発信することを目指しています。本組織が対象とする研究開発分野には、視覚工学、生体計測技術、シミュレーション技術、ユニバーサルデザイン、加齢工学、福祉工学、感覚知覚工学、ヒューマンセンタード情報処理、カラーサイエンスなどが含まれます。このような、既成の学会や業界の枠を超えた、視覚研究者と様々な分野の企業・団体・個人の方々との協同によって、はじめて視覚に関わる様々な問題が解決されるものと考えます。

以上、視覚に関わる問題に直面されている方々、視覚研究の知見を技術開発へ応用したい方々、視覚の不思議に魅せられた方々、こうした多くの皆様に視覚科学技術コンソーシアムへのご参画を御願いする次第です。